一年の折り返しにあたる六月末や、年の終わりが近づく十二月末になると、神社の境内に大きな輪が設けられていることがあります。これは「茅の輪」と呼ばれるもので、参拝者はその輪をくぐり、知らず知らずのうちに身についた穢れを祓い、無病息災を願います。
大祓式は、日本文化の中で古くから受け継がれてきた祓いの神事です。毎日の暮らしの中では、疲れ、不安、迷い、後悔、気づかない心の乱れが少しずつ積もっていくことがあります。大祓は、そうした心身の曇りを祓い清め、清らかな気持ちで次の季節へ向かうための大切な節目です。
この記事では、大祓式の意味、夏越の大祓と年越の大祓の違い、茅の輪くぐりのやり方、形代や人形に込められた意味、そして大祓式や茅の輪くぐりを行っている全国の神社を紹介します。神社巡りが好きな方はもちろん、和の心や日本文化をあらためて学びたい方にも、心が整うきっかけになる内容です。
大祓式とは、半年ごとに心身を祓い清める神事です
大祓式は「おおはらえしき」と読みます。大祓とは、日々の生活の中で知らず知らずのうちに身についた罪や穢れを祓い清める神事です。ここでいう罪や穢れは、誰かを責めるためのものではありません。人として生きていれば、言葉や行いに迷いが生じたり、心が乱れたり、疲れがたまったりすることがあります。大祓式は、そうした日々の積み重なりを静かに祓い、本来の清らかな状態へ立ち返るための神事です。
大祓は、一般的に年に二度行われます。六月の大祓は「夏越の大祓」と呼ばれ、半年間の穢れを祓い、暑い夏を健やかに越え、残り半年を無事に過ごすことを願います。十二月の大祓は「年越の大祓」と呼ばれ、一年の終わりに心身を清め、新しい年を清々しく迎えるために行われます。
六月三十日と十二月三十日を節目に行う神社もありますが、十二月の大祓は十二月三十一日に行う神社も多く、日程は神社によって異なります。そのため、実際に参列したい場合は、参拝予定の神社の公式案内で日時や受付方法を確認しておくと安心です。
夏越の大祓と年越の大祓の違い
夏越の大祓は、一年の半分を過ぎる六月三十日前後に行われる神事です。梅雨から本格的な夏へ向かう季節に、半年間の穢れを祓い、暑さや疫病を避け、無病息災を願います。境内に茅の輪が設けられることが多く、参拝者がその輪をくぐる「茅の輪くぐり」は、夏越の大祓を象徴する行事のひとつです。
年越の大祓は、十二月末に行われる神事です。一年の終わりに、その年の穢れを祓い、新しい年を清らかな心で迎える意味があります。初詣が新年の始まりを祝う参拝だとすれば、年越の大祓は、その前に心身を整えるための参拝といえるでしょう。
夏越の大祓も年越の大祓も、どちらも「心身を祓い清める」という意味では同じです。ただし、夏越の大祓では茅の輪くぐりが特に印象的で、年越の大祓では形代や人形に一年の穢れを移し、新年を迎えるための祓いとしての意味合いが強くなります。
茅の輪くぐりとは、無病息災を願う祓いの作法です
茅の輪くぐりとは、茅や藁などで作られた大きな輪をくぐり、穢れや災いを祓い清める神事です。茅の輪の由来には、蘇民将来の故事が関わっていると伝えられています。旅の途中で宿を求めた神を、貧しいながらも手厚くもてなした蘇民将来が、のちに神の教えによって疫病から守られたという伝承です。
現在では、茅の輪をくぐることで、疫病退散、無病息災、厄除け、家内安全などを願います。神社の境内に設けられた大きな茅の輪は、見た目にも印象的ですが、本来は写真を撮るためだけのものではありません。心を静かに整え、半年の自分を振り返り、次の季節へ向かうための祈りの場です。
茅の輪くぐりは、ただ輪を通り抜けるだけではなく、自分自身を見つめ直す時間でもあります。忙しい日々の中で後回しにしていた疲れや不安を手放し、また新しい気持ちで歩き出す。そう考えると、古くから続く神事が、現代の暮らしにも自然に寄り添っていることがわかります。

茅の輪くぐりのやり方
茅の輪くぐりの作法は、神社によって少しずつ異なりますが、一般的には八の字を描くように三度くぐります。まず茅の輪の前で軽く一礼し、正面から輪をくぐって左へ回ります。再び正面に戻ったら、二度目は輪をくぐって右へ回ります。もう一度正面に戻り、三度目は輪をくぐって左へ回ります。その後、正面から輪をくぐって本殿へ進み、参拝します。
くぐるときには、「水無月の夏越の祓する人は千歳の命のぶというなり」という和歌を唱える神社もあります。声に出すのが難しい場合は、心の中で静かに唱えてもよいでしょう。また、神社によっては「祓え給い、清め給え」と唱えるところもあります。現地に案内板がある場合は、その神社の作法に従うのが自然です。
大切なのは、回り方を間違えないことだけに気を取られすぎないことです。神社は、心を整える場所です。前の人の動きを見ながら、落ち着いて進めば大丈夫です。混雑しているときは、立ち止まりすぎたり、撮影に時間をかけすぎたりせず、ほかの参拝者の流れを妨げないようにしましょう。

形代や人形に穢れを移す意味
大祓式では、茅の輪くぐりとともに「形代」や「人形」が用いられることがあります。これは、人の形に切った紙に自分の名前や年齢を書き、体をなでたり、息を吹きかけたりして、身についた穢れを移すものです。
形代に穢れを移すという行為は、自分自身の心身を見つめ直す時間でもあります。半年間、無理をしていなかったか。誰かにきつい言葉をかけてしまわなかったか。自分の心を後回しにしていなかったか。そうしたことを静かに振り返り、形代に託して祓い清めていただくのです。
形代は神社に納めたあと、神社ごとの作法で清められます。遠方の方のために郵送で形代を受け付けている神社もあります。参列できない場合でも、形代を通して大祓に心を向けることができるため、忙しい方や遠方に住む方にも参加しやすい神事といえます。
大祓式に参加するときの注意点
大祓式は、基本的にどなたでも参列できる神社が多いですが、受付が必要な場合や、定員が設けられている場合があります。特に有名な神社では、六月三十日や十二月末は混雑しやすいため、時間に余裕を持って参拝することが大切です。
茅の輪の設置期間も神社によって異なります。六月三十日当日のみのところもあれば、六月中旬から七月上旬までくぐれるところもあります。年越の大祓も、十二月三十日、十二月三十一日、または年末の別日程で行われるなど、神社によって違いがあります。
服装は普段の参拝と同じく、清潔感のあるものがよいでしょう。格式ばった装いでなくても構いませんが、神事に参列する場合は、落ち着いた服装を意識すると安心です。また、夏越の大祓は屋外で行われることが多いため、暑さ対策や雨対策も忘れないようにしましょう。
大祓式・茅の輪くぐりを行う全国の神社十二選
寒川神社
神奈川県高座郡寒川町にある寒川神社は、八方除の守護神として知られる神社です。六月の水無月大祓式では、大祓詞を奏上し、形代に穢れを移し、参列者が茅の輪をくぐって心身を祓い清めます。寒川神社は境内が広く、空気も清々しいため、節目の参拝や再出発を願う参拝先としても人気があります。

下鴨神社 賀茂御祖神社
京都の下鴨神社は、正式には賀茂御祖神社といい、世界遺産にも登録されている古社です。下鴨神社の夏越神事は、一般的な六月三十日の夏越の大祓とは異なり、立秋前夜に行われる点が特徴です。茅の輪をくぐることで疫病退散や無病息災を願い、御手洗池の水辺に京都らしい清らかな祓いの文化を感じることができます。

上賀茂神社 賀茂別雷神社
京都の上賀茂神社では、六月三十日に夏越神事と夏越大祓式が行われます。茅の輪をくぐる神事に加え、夜には夏越大祓式が斎行され、京都の水と祓いの文化を深く感じられる神社です。下鴨神社とあわせて訪れると、賀茂信仰と京都の季節行事をより立体的に味わえます。

日枝神社
東京・赤坂の日枝神社では、大祓の行事として茅の輪くぐりが案内されています。茅の輪は左回り、右回り、左回りと、八の字を描くように三度くぐる作法です。都心にありながら、鳥居や石段、緑に包まれた境内で、仕事運や日々の平穏を願う参拝にも向いています。
東京大神宮
東京大神宮では、毎年六月と十二月の末日に大祓が行われます。六月の大祓は夏越の大祓とも呼ばれ、茅で作った大きな輪をくぐる茅の輪くぐりも行われます。縁結びの神社として知られていますが、大祓式の時期に訪れると、自分自身を整え、よいご縁を迎えるための心の準備にもなります。

平安神宮
京都岡崎にある平安神宮では、夏越大祓に向けて応天門に茅の輪が設置されます。朱塗りの大きな門と茅の輪の組み合わせは美しく、京都の季節行事としても印象的です。神社巡りや御朱印巡りとあわせて訪れる方にも、季節の節目を感じやすい場所です。

貴船神社
京都の貴船神社では、六月三十日に夏越の大祓式が行われ、あわせて茅の輪くぐり神事も執り行われます。貴船神社は水の神様を祀る神社として知られ、清らかな水辺の気配と祓いの神事がよく調和しています。暑い季節に訪れると、京都市街とは違う涼やかな空気に包まれ、心身がすっと整うような時間を過ごせます。

筥崎宮
福岡県福岡市の筥崎宮では、毎年六月三十日に大祓式が行われ、七月末の土日に夏越祭として茅の輪くぐり並びに千度祓いが斎行されます。筥崎宮は日本三大八幡宮のひとつとして知られ、福岡の歴史と祭礼文化を感じられる神社です。九州で夏越の大祓や茅の輪くぐりを体験したい方にとって、候補に入れたい一社です。
宮地嶽神社
福岡県福津市の宮地嶽神社では、大祓式が六月三十日と十二月三十一日に行われ、夏には大夏越祭として茅の輪くぐり神事も知られています。宮地嶽神社は大注連縄や光の道で有名ですが、夏の祓いの神事も大切にされています。観光として訪れるだけでなく、無病息災や厄除けを願う参拝先としても魅力があります。
藤崎八旛宮
熊本県熊本市の藤崎八旛宮では、六月の夏越の大祓として茅輪くぐりが行われます。半年分の穢れを落とし、残り半年の健康と厄除けを祈願する神事として紹介されており、境内の茅の輪をくぐって無病息災を願います。熊本の暮らしに根づいた神社の年中行事として、地域の文化を感じられる神社です。
廣田神社
青森県青森市の廣田神社では、夏越大祓式が行われ、茅の輪をくぐって半年間の心身の罪や穢れを祓い清め、無病息災を祈ります。人形に願い事、氏名、年齢を書き、身体を撫で、息を吹きかけて邪気を移す案内もされています。東北地方で夏越の大祓に参列したい方にとって、わかりやすく参加しやすい神社です。
竹駒神社
宮城県岩沼市の竹駒神社では、夏越の大祓にあわせて人形による祓いが案内されています。人形に氏名や生年月日を書き、息を吹きかけ、身体を撫でて穢れを移す作法が紹介されており、茅の輪守も授与されます。東北地方の代表的な稲荷信仰の神社として知られ、夏の節目に心身を整える参拝先としてもふさわしい場所です。
まとめ
大祓式は、半年に一度、自分の心と体を振り返り、知らず知らずのうちに身についた穢れを祓い清める日本文化です。六月の夏越の大祓では、茅の輪くぐりを通して無病息災を願い、十二月の年越の大祓では、一年の終わりに心身を整えて新しい年を迎えます。
茅の輪くぐりは、左、右、左と八の字を描くように三度くぐるのが一般的です。ただし、神社によって作法や唱える言葉、茅の輪の設置期間は異なります。現地の案内板や公式情報を確認し、その神社の作法に合わせて参拝すると安心です。
寒川神社、下鴨神社、上賀茂神社、日枝神社、東京大神宮、平安神宮、貴船神社のようなよく知られた神社だけでなく、九州や東北にも大祓式や茅の輪くぐりを大切に受け継ぐ神社があります。旅先で季節の神事に出会ったら、ぜひ静かな気持ちで茅の輪をくぐり、これまでの半年に感謝し、これからの日々の平穏を願ってみてください。
大祓式は、派手な願掛けではなく、心を整えるための静かな祈りです。和の心に触れ、日本人が忘れかけた日本の良さを再確認する時間として、季節の節目に神社を訪れてみることをおすすめします。
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